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東京高等裁判所 平成元年(行コ)137号 判決 1990年6月28日

控訴人 石塚俊章

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 田村徹

同 山田由紀子

被控訴人 千葉市土気南土地区画整理組合

右代表者理事長 勝山英蔵

右訴訟代理人弁護士 田宮甫

同 堤義成

同 鈴木純

同 行方美彦

同 吉田繁實

同 白麻子

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示「第二当事者の主張」欄の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表四行目の次に改行して次のとおり加え、同五行目の「1」を「2」に、同一一行目の「2」を「3」に、同裏三行目の「3」を「4」に、同行の「本件請求」を「本件訴え」にそれぞれ改める。

「1 土地区画整理法一四条によれば、土地区画整理組合の設立に当たっては、定款及び事業計画を定めなければならず、同法一六条で準用される六条によれば、事業計画においては、建設省令で定めるところにより施行地区を定めなければならないとされているが、土地区画整理法施行規則五条一項によれば、施行地区は、施行地区位置図及び施行地区区域図を作成して定めなければならず、同条三項によれば、施行地区区域図は「施行地区の区域並びにその区域を明らかに表示するに必要な範囲内において、……(中略)……宅地の地番及び形状を表示したものでなければならない」とされている。したがって、施行地区区域図を作成するためには土地区画整理事業を施行する区域と施行しない区域の境界(地区界)の確定が前提であり、地区界の確定には、地区界に接する土地の所有者の境界確認のための立会い及び境界についての同意が必要不可欠である。しかるに、被控訴人は、設立に際し、右境界(地区界)の土地の共有者である控訴人らに対し境界確認のための立会いを求めず、控訴人らの境界に対する同意もないのに、本件土地と他の土地との境界を地区界とする施行地区区域図を勝手に作成し、同図を前提とする事業計画を定めて組合設立の認可申請をしたものである。しかしながら、地区界に接する土地の所有者の境界に対する同意のない施行地区区域図は無効であり、これを前提とする事業計画も無効であるから、被控訴人においては、施行地区が確定されておらず、その結果土地区画整理法一四条所定の設立の要件である事業計画も定まっていないので、その設立の認可は無効であり、被控訴人は設立されていない。

本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内に属するか否かは、被控訴人の設立認可の有効無効という法律問題が決着した後に発生する「事実関係」の問題にすぎない。被控訴人の設立の認可が無効であれば被控訴人は設立されていないのであるから、必然的に本件土地は被控訴人の施行地区の範囲内の土地でないことになる。また、被控訴人の設立が有効であれば、必然的に本件土地は被控訴人の施行地区の範囲内の土地となるから、被控訴人はそれを前提として手続を進めれば足り、本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内に属することの確認を求める利益はないことになる。

二  原判決三枚目裏七行目の「同3の事実は否認する」を「本件土地が被控訴人の事業計画上定められた施行地区の範囲内にあることは認める。ただし、前記のとおり被控訴人の設立の認可は無効であり被控訴人は設立されていないから、本件土地は被控訴人の施行地区の範囲内の土地でないということになる(仮に被控訴人の設立の認可が有効であれば、本件土地は被控訴人の施行地区の範囲内の土地ということになる。)。」に改める。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本件訴えの適法性について

1  本件訴えは、土地区画整理組合である被控訴人が、本件土地の共有者である控訴人らに対して、本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内に属することの確認を求めるものである。

ところで、ある土地がある区域内にあるかどうかは、本来事実問題であり、本件のような訴訟は、甲地が乙地の範囲内に属することの確認を求めるのと同様、事実の確認を求めるものであって、確認訴訟として適法といえるかどうかは疑問である(通常、甲地が乙地の範囲内に属するかどうかに争いがある場合には、乙地と隣地の境界確定訴訟により甲地が乙地の範囲内に属することを確定するか、乙地が自己の所有である場合甲地が自己の所有に属することの確認を求めるべきであって、甲地が乙地の範囲内に属することの確認というような事実の確認を求めることは許されないというべきである。)。

もっとも、事実の確認を求める訴えであっても、その事実を確定することによりその事実の存否をめぐって派生する多くの紛争を一挙に解決することができる場合には許されないわけではない。

しかしながら、本件においては、仮に控訴人らにおいて本件土地が被控訴人の施行地区内にあることの位置関係の事実を争っているとしても、被控訴人において本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内に属することの確認を受けることにより、右の事実の争い以外に、現に発生し又は将来発生すべきいかなる紛争の解決に資するのかについては、必ずしも明らかではない。

のみならず、控訴人らの主張によれば、控訴人らは、被控訴人の事業計画上定められた施行地区内に本件土地が存在すること(物理的な位置関係)自体を争っているわけではなく、土地区画整理組合が事業計画上施行地区を定めるには、その性質上その境界(地区界)を確定する必要があり、そのためには境界(地区界)に接する土地の所有者の境界確認の立会いと同意を受ける必要があるのにこれを受けずに施行地区を定め、これに基づき事業計画を決定し、設立の認可を受けても無効であり、したがって、被控訴人は未だ設立されていないから、必然的に本件土地は被控訴人の施行地区の範囲内に属しない(すなわち、被控訴人は本件土地について土地区画整理事業を施行する権限がない。)ことになる(もし仮に設立の認可が有効ならば、本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内に属することは認める。)というのであって、被控訴人の設立の手続の適否、設立の認可の効力、設立の成否、被控訴人の土地区画整理事業を行う権限の有無を争っているのである。したがって、被控訴人が、判決により本件土地が被控訴人の施行地区内に属することの事実の確定を受けても、それによっては控訴人らが争っている被控訴人の設立の認可の効力、設立の成否、被控訴人の権限の点については既判力が及ばず、これをなんら確定するものではないから、将来控訴人らと被控訴人との間に発生することが予想される紛争、すなわち、被控訴人の控訴人らに対する経費の賦課、土地区画整理事業の施行に伴う各種の処分をめぐって、被控訴人の設立の認可は無効であり、被控訴人は成立していないから、被控訴人にこれらの処分を行う権限はないとして、控訴人らからこれらの処分が争われる場合の解決になんら資するものではなく(これらの紛争をあらかじめ解決するためには、被控訴人の設立の認可の効力ないし設立の成否の確定を求めるのが最も適切であると考えられるが、弁論の全趣旨によれば、この点については、控訴人らから被控訴人を被告として被控訴人の設立無効確認訴訟が提起されている(千葉地方裁判所平成元年(行ウ)第一四号事件)ことが認められる。)、被控訴人において、本件土地が被控訴人の施行地区の範囲内にあることの確認を求める利益はないものというべきである。

2  また、土地区画整理組合はその施行地区内において土地区画整理事業を行う権限を有するので、本件訴えは、土地区画整理組合である被控訴人が本件土地について土地区画整理事業を行う権限を有することの確認を求める趣旨であるとも考えられる。

しかしながら、このような訴訟は、法令に基づく抽象的な権限の確認を求めるものにすぎず、紛争の成熟性を欠くものというべきである(仮に紛争の成熟性があるとしても、本件訴えを次の3のように解した場合と同様に、被控訴人からこのような訴えを提起する利益があるものと認めることはできない。)。

3  また、本件土地が施行地区内にあるとその所有者である控訴人らは強制的に組合員とされることになるので、本件訴えは、控訴人らが被控訴人の組合員であることの確認を求める趣旨であるとも考えられる。このような訴訟は、いわゆる公共組合の組合員という公法上の地位確認を求める訴訟、すなわち公法上の当事者訴訟であると考えられ、土地区画整理組合の組合員としての地位は、例えば河川区域内に土地を所有していてその制限を被る地位などとは異なり、より具体的な権利義務の帰属する地位であるから、その存否についての紛争は成熟性を欠くものとはいえず、右地位自体の存否を確認の対象とする訴訟は許されるものと考えられる。

しかしながら、行政庁としての立場をも有する被控訴人としては、たとえ控訴人らが被控訴人の組合員であること(あるいは被控訴人の設立の認可の効力又は被控訴人の権限)を否定しこれを争っていても、あらかじめ判決により、控訴人らが被控訴人の組合員であること(あるいは本件土地について被控訴人が土地区画整理事業を行う権限を有すること)の確定を受けることなく、控訴人らに対し、公権力の行使として経費に充てるための賦課金を賦課し、その徴収を市町村長に申請して滞納処分の例により徴収してもらうことができ、また、土地区画整理事業の遂行に必要な各種の行政処分を行うことができるのであるから、控訴人らが被控訴人の組合員であることの確認(あるいは本件土地について被控訴人が土地区画整理事業を行う権限を有することの確認)を求める訴えを提起する必要性は、特段の事情のない限り、ないものというべきである。

そして、右特段の事情のあることを認めるに足りる証拠はない。

4  そうすると、いずれにしても、本件訴えは、その利益を欠くか紛争の成熟性を欠くものとして、不適法というべきである。

二  よって、これと異なる原判決を取り消し、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、 八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 赤塚信雄 桐ヶ谷敬三)

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